轤チしゃればいいのよ。そして、やっぱり事務的なことは事務的に早くかたづけた方がよくはないのかしら」
「お金のことかい?」
「そうなんでしょう? きょうのさわぎにしたって」
「そりゃそんなようなもんだけれど」
多計代は、金の問題を意識的にさけた。多計代は長椅子の上に両脚をのばしたまま向きをかえた。あけはなした露台から、ブルヴァールを越えてひろく夕空が見晴らせる位置になった。
「和一郎が椅子をふりあげたとき、あのひとの手をそこでつかまえているのが誰だか、わたしにははっきりわかった」
前後のつながりなくつぶやく多計代の声を、伸子は憂鬱に聴いた。多計代の調子は特別に重々しく、そのことが、彼女の意味しているものを伸子にさとらせた。多計代は、「彼」が――保の霊が母をまもった、といおうとしている。アパルトマンに引越して来てから、白地|錦襴《きんらん》の包みものは、夫婦の寝台の枕元の台の上におかれているのだった。
八
伸子のまじめな心配は、パリから数千キロはなれた満州とソヴェトとの国境にかかっている。伸子のてぢかななやましさと混乱は、ブルヴァール・ペレール四七番地のアパルトマンにあった。
日曜日で通い女中のマダム・ルセールが休み、伸子が夕飯の支度をした日だった。その晩は泰造もいた。食後、泰造と多計代との間に和一郎の話が出た。和一郎はその日も小枝と一緒に来て、旅費の処置について母の返答をもとめたのだそうだった。この前、和一郎がおこった日も、多計代は、旅費の処分という点ははっきりさせずに、和一郎が我ままを云って乱暴したという風な面を主にして泰造にその日のことを告げていた。きょうも、多計代は、
「ほんとうに、あのひとたちったら、何と考えているんだろう」
相談というよりは、泰造に自分の不服を訴える口調だった。
「つれて来てもらったおかげで、パリだって見ているんじゃありませんか。自分たちの力で何ができるというんだろう」
食堂の食器棚へ洗ったコップをしまいながら、伸子は多計代がそう云っているのをきいた。多計代がそんなニュアンスで泰造の耳に入れる限り、旅費の配分という実際的な問題は解決されようがない。伸子は多計代の態度はごたごたを深くすると思った。泰造は長男に批評をもっているのだから、妻の話しようによってはただ和一郎に対して不愉快な感情をつよくするばかりにきまって
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