て学校が動揺したが、結局ずるずるに納った。そのいきさつを宏子は短く書いた。それが「戦旗」の隅にのったのであった。宏子は太田にそう云われて、嬉しそうな顔になってはる子を見、
「随分直したわね」
と笑った。はる子が、いかにも姉ぶった調子で、
「だって、この人ったら小説か論文でも書くみたいにこってるんだもの」
 太田と呼ばれている重吉は笑い出して、
「小説にかけるなら小説だっていいんだよ」
と云った。重吉は、はる子が先輩ぶっているところに興味を感じて眺めた。また宏子が、対手の経験の蓄積が自分よりは豊富なことを認めていて、素直で快活な態度であるのも快く感じられた。外套も服も一様に紺ぽい毛織で、カラーだけ真白な装をしている宏子の全体には、これから咲こうとしている何かの樹の花のような潜んだひたむきな調子があるのも感じられるのであった。
 はる子はさっきから自然木の腰かけから手をのばして、霜で赤く色づいている躑躅《つつじ》の堅い葉をむしっていたが、やがて居ずまいを直して、
「私、一つ疑問があるんだけど……」
 そう云って重吉を凝っと見つめた。
「私、今のままの生活をつづけていて正しいんでしょうか……
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