を守った当然な気持からであった。だんだん来るうちに、その気持にあやが加って、はる子は、歩きながら思わずくすくす笑い出した。
「なによ!」
 慍《おこ》ったような調子で自分は笑いもせず宏子ははる子をとがめるが、はる子が何を笑っているのかはよくわかった。はる子とこういう工合に連立って出て来たのは宏子にとって全く初めての経験であった。一生懸命さが、ベレーをかぶった丸い顔にかくすことが出来ずに輝やいているのである。
 公園の広い門から入って、図書館のわきへ来かかると、右手の小道からサンデー毎日を片手にもった青年が出て来た。平らな、力のこもったゆっくりした歩調で来かかって、行きすぎるのかと思ったら、
「やア」
 余り高くない声でそう云って、ちょっとソフトのふちへ手をかけた。
「しばらく」
 はる子も今は真面目な顔つきで挨拶した。そのまま、砂利の敷かれた小道へ曲って暫く行って、はる子が、
「これ――宏子さん」
と紹介した。
「太田さんての」
 こういう人に会うことを予期していなかった宏子は、黙ってはる子のそばを歩きながら軽く頭を下げた。
「すこしゆっくりしてもいいのかい」
「いいんです」
 小道の
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