らかにして初めて書かれた意味がある。

 同志細田は不幸にも「裏切者《プロヴォカートル》」において、そのような敵の組織に対する階級的態度は示さなかった。一人の小市民的英雄主義に毒された男が挑発者となる道ゆきを性格の分析から跡づけようとしている。しかしながら挑発者の階級的根源はそれによっては明らかにされず、個人の天性というものに全部罪をかぶせることによって、却って支配階級の計画的無恥、破廉恥的陰謀が覆いつつまれている。そのことによって、同志細田はプロレタリアートにとっては在るに甲斐なき数万字を徒らに費したという結果を招いているのである。
 同志鈴木清が『改造』に「火を継ぐもの」を書き、同志堀田昇一が『中央公論』に「モルヒネ」を書いている。また同志須井一は、「労働者源三」の続篇として「城砦」を『改造』に発表している。これらの諸作品についてはいずれ別の場所で改めてとりあげられるであろうが、共通して一つの感想を抱かせた。それは、闘争の武器として磨かれてこそ、プロレタリア文学の作品は新たな価値に輝くのであって、ブルジョア的なものへの馴致は意味ないということである。「モルヒネ」にしろ「火を継ぐもの
前へ 次へ
全12ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング