完成」「未完成」「性格」というようなものを何か固定的なもののようにもち出している。同志貴司は同志小林の性格における宿命的特徴のように「偏狭であった」ということを強調し、さながら同志小林の日和見主義との妥協ない闘争は、その「偏狭さ」の現れであったかのような印象を読者に与えている。
「気質」というようなものをただ抽象して固定化させるとすれば、それは極めて非弁証法的であり、危険であると云わなければならない。レーニンは裏切り者カウツキーによって偏狭どころか、偏執狂とさえ云われた。そしてそれがデマゴギーであることは、歴史が証明しているところである。

          三

『中央公論』四月号には、同志小林の長篇小説「転換時代」が言語に絶する伏字、削除をもって発表されている。きくところによると、この題は『中央公論』編輯者によって変えられたもので本来は「党生活者」という題であるらしい。そして、去年の十月頃執筆されたものであるそうである。
「党生活者」は、その親しみぶかい沈潜した文章をとおして、ボルシェヴィキーの気魄を犇々《ひしひし》と読者に感銘せしめる小説である。「オルグ」を書いた時代、前衛を描
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