をまいたあげくにさとに逃げて行ったんだものだからやけ半分でよけいにひどくなったんだよ」とここまでおっしゃって一寸煙草を一服なさる。こんないいやさしいお祖母様が長いきせるで煙草をのんで紫のけむりをわに吹いていらっしゃる所はあんまりにつかわしくないと思って紫のけむりの行方を見つめて娘の様子を思い出して居ると「それであんまり娘も可哀そうだから初めのうちこそ意けんもして見たが四十を越えた男のやけはもうなおるものでないと村のものももう意けんはしないが娘が可哀そうだからいらないものでも持って来れば十銭や十五銭はきっとかってやるのさ」とおっしゃって「ほんとに可哀そうにねー」とつけたしをなさる。「ほんとにまあ、可哀そうだ事、それにずいぶんなお父さんですこと」とお話が終ると一所に私の口からすべり出した。「家はどこですか」「あの一番池の北の堤の下の松林のわきにあるそりゃあみじめな家なんだよ」とおっしゃる。見えないとは知りつつ一番池のけんとうを見る。清の家はかげも形も見えなく只向う山が紫の霞にとざされているの許がはっきり目に見える。熟柿くさい息をハーハー吸[#「吸」に「ママ」の注記]きながら売上りの銭を目の
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