これ丈うれたのかい」とおっしゃるとだまったままでうなずいて一寸私の顔をぬすみ見てはよれよれになった袂の先をいじって居る。お祖母様は水色の封筒を四つと三本筆を一つ、細巻の状紙を一つ取って「いくらだい」とおっしゃると土間の石ころを見つめながら「二十六銭」ききとれないような小さい声である。「硯の引出しから三十銭出しておつりはいいよ」と云って茶の間にお入りになると娘は中みのえっ[#「えっ」に「ママ」の注記]た包を小わきにかかえて丁寧なおじぎをして出て行った。「お祖母様今の娘どうしたの」と早速うかがわずにはいられなかった。お祖母様は「今の娘はねー、お前なんぞ夢にも見た事のない苦しい思をして居るんだよ、あの子のお父さんと云うのは村で評判の呑ん平で一日に一升びんを三本からにすると云うごうのものなんだよ、それでおまけに大のずる助で実の子のあのお清に物をうらせて自分は朝から晩まで酒をあびて居てさ、にくらしいにもほうずがあるじゃあないかねい、娘にそんな苦しい思いをさしておいてうれ高が少いと打ったり、けったりするんだと、もとはそれでもそうとうに暮して居たんだがきりょうのぞみでもらった後妻が我ままでさんざん金
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