前にならべて今日の売高がすくないと小さい娘を叱かりつけて居る恐しげな父親の様子が思い出されて、娘が可哀そうだと思う心は尚々まして来る。そのよくよく日も四日許置いてからも又小さい包をもったお清の姿が水口の前にあらわれた。そのつどに小さい手にはいくつかの銭がにぎられた。
私の知って居る人でやっぱりお清さんと云う名の人が居る。年頃も丁度同じくらいで。
東京のお清さんは大変しわわせで居る。
幾人もの女中にかこまれて心配な事と云えばお花見の前の空模様ぐらい、それは、幸にくらして居る。
名も同じ年頃も同じ娘でありながらどうしてこう二人の身の上はちがうだろうと私は不思議でならない。父親がしっかりしないため、それは云わずと知れて居るけれども、私はどうしても不思議でならない。私も苦労をしらない娘だからかも知れないけれども、同じ娘でもこう違っても思うと何だか口をきいてみたいようになった。今日はめずらしく国分の前でお清に会った。私は口をきこうとして近づくと上目を一寸つかって走りぬけて行ってしまった。私はあの恐しげな父親は私と同じ娘をこんなにいじけさしてしまったと思うと泣きたくなるほどうらめしかった。
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