働く婦人の歌声
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四一年二月〕
−−

 今日いろいろの職場に働いている若い婦人たちはただ自分たちがそうやって毎日勤めに出て働いているということにだけ誇りを感じているような単純な心で社会を見てはいない。
 勤勉なこれらの女性たちは、自分たちの働きに酬いられるものが自分一人を食べさせ、住ませ、着させ、人間として向上してゆくために決して十分でないことをよく知っている。友達としては積極に社会へ出て働く婦人を好んでも、妻としての女性を考えるとやっぱり職場にいるひとでない対象を念頭に浮べるような男のひと達の矛盾した感情をも、直接自分たちの人生に関係をもっていることとして、複雑に感じとられている。
 日本の若い働く女性たちのことごとくが置かれている、この職場と家庭生活との板挾みの状態は極めて深刻な性質をもっている。日本の社会が近代化して来たテムポは明治このかた非常に急であるが、そのことは、一方に前時代の様々な習俗が自然に常識の中で変化されてゆくだけの時間がなかったこ
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング