たところで行われた。わたしたちは、そういう式場で「螢の光、まどの雪」という歌をうたい、涙を眼に湛えて誠之を卒業したのであった。
コの字に建てめぐらされた木造二階建の真下が女の遊び場で、左手にずっとひろがった広い砂利敷のところが男児運動場であった。そっちに年を経た藤棚があって、季節になると紫の花房を垂れた。その下はうすぐらくて、いい匂いがした。蜂がたくさん花房のまわりをとんだ。
からりとした男児運動場のところへ、ベビー・オルガンをもち出して、六年女児は体操の時間にカドリールとコチロンを習った。タータタタと空に響くオルガンのメロディーにつれて、えび茶や紫紺の袴をつけた六十人ほどの少女が、向い会って、いっせいにヨーロッパ風に膝をかがめ、舞踏の挨拶をするのであった。その運動場は、トタン塀にかこまれていて、黒板塀の方に桜の樹が並んでいた。その樹の下の地面には毛虫の落す黒い丸い粒があった。教員室と裁縫室の窓はこの運動場に面していて、当番のとき水のみ場のわきにある小さい池の掃除を、いいこころもちで高い声で唱歌をうたいながらしていると、先生の顔が上の窓から覗くことがあった。覗かれると、どうかしても
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