藤村の文学にうつる自然
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)馬籠《まごめ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)信州|小諸《こもろ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)よそ[#「よそ」に傍点]の家での
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現代の日本の作家の中で、その作品に最も多く自然をうけ入れ、示しているのは誰であろう。島崎藤村をその一人としてあげ得ると思う。
藤村は、明治五年、長野県の馬籠《まごめ》で生れた。家は馬籠の旧本陣で、そこの大規模な家の構え、召使いなどの有様は、「生い立ちの記」の中にこまかく描かれている。父というひとは、「それは厳格で」「家族のものに対しては絶対の主権者で、私達に対しては又、熱心な教育者で」あった。髪なども長くして、それを紫の紐で束ねて後へ下げ、古い枝ぶりの好い松の樹が見える部屋で、幼い藤村に「大学」や「論語」の素読を教えた。その父の案で、藤村は僅か九歳のとき、兄と一緒に東京の姉の家へ、勉強によこされたのであった。
そのときから、二十二三歳になった藤村が詩をつくるようになって、文学的生涯に入るよう
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