を持って来てけつまずきそうな所に置いて見たり、箒をよせかけて、泥棒が戸を破ってソロソロと頭を出すと、いきなり箒の柄がバターンと倒れて来て、いやと云う程横面を張り倒す様子を想像して、独りでホクホクして居た。
水口には、大バケツだの盥だのがウジャウジャと積んである。
湯殿の口には小さい妹の行水盥に水を一杯張ったのが、縦横に張り板をのせて据えて居る。
家中の、凡そ口と云う口には皆、異様な番人が長くなったり尖ったりして置いてあったのである。
私はこれなら大丈夫だと思った。
とにかく、今夜だけは大丈夫に違いないと安心した。まして、朝来た巡査は、今夜は御宅の周囲を注意して置きますと云って呉れた事を思い出してからは、益々心丈夫にならない訳には行かなかったのである。
こうやって立って行く四時まではどんなに、のろくさと、変な心持であった事か。
私は漸う世界が明るくなって来るまでは、若し泥棒がだんびらを下げてヌッと立ちはだかったら、どんな風に落付いてやろうか。
ちょくちょく新聞に出るよその偉いお嬢さんや奥さんの様に、お茶を出しお菓子を出したあげく、御説法をして、お金をちょんびりやって帰す様
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