田さんやめたよ」
 次の駅でその女学生たちは大抵降りてしまった。
 再び、満鉄傭員のカーキ色帽が私のところから見えるようになったのだが、その若い男の口のきき方や素振りは、何かその男が幸福ではないという感じを私に与えるのであった。満鉄へつとめているというのに旅行案内一冊その男は持っていず、娘の子をつれたのが、
「つづけて二三本出ますね」
と、綿密に自分の小型旅行案内をくっては調べてやっている。
「米原三時五十五分ですよ」
「これ何時にいぐんです?」
「上野が五時半頃でしょう」
 満鉄は、そうきいても、ぼーとしたように黙っている。
 いつしかレールは左右に幾条も現れ、汽車は高みを走って、低いところに、混雑して黒っぽい町並が見下せた。コールターで無様に塗ったトタン屋根の工場、工場、工場とあると思うと、一種異様な屑物が山積した空地。水たまり。煤をかぶった狭い不規則な地面の片端を利用した野菜畑。色さまざまの干物の一杯ある家屋の裏。汽車は高いところを走っているから、そういうゴミゴミした大都会の入口の町並一帯の直ぐ向うの広いコンクリの改正通りには均斉を保って街燈が立連り、トラックなどが走っているのま
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