える。
睡っている連中が多い。それだもんで、喋っている一組の男の声だけがさっきから、車輪の響きや短い橋梁をわたるゴッという音の合間に私のところまで聞えて来るのである。
「去年も五六人知ってる人が行ったですがね。去年行った衆はたいがいもう三十越したったが……、私もこんど募集があったら行こうかと思っているが、どうも――子持ちだからねえ」
ネクタイをずらしたようにかけて、脱いだゴム長は坐席の下にたぐめたまま、此方を向いて紺足袋の片膝抱え、おとなしい口調で云っている。話対手の顔は見えず、学生帽のような形をしたカーキ色の帽子や同じ色の外套の裾などが見えるばかりだ。一寸見ると青年団員か何かかと思われるカーキ色ずくめのその若い男は、汽車が古河という小さい駅に停った時、どうしたわけかグズグズに繩のゆるんだ白布張りの行李を自分でかついで乗り込んで来た。そして、場席はほかのところにいくらも空いているのに、子供連れの男と向い合って腰をおろしたのである。
「満鉄も建設の方だといくらもありますが、……傭員ですからね」
「本社員になれないんですか?」
「建設の方はまた別で」
声が車輪の音の間に途切れて分らな
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