は非常な恥かしさである、不安なのであった。
 寛容とか、謙譲とかいう言葉に、自分はホーッとなってしまわなかったか。
 人を愛することを知る自分に、自分から酔ってしまいはしなかったか。
 第一の詰問には、断然と、そうではありませんと云える彼女も、その次の前へ来ては、躊躇を感じさせられた。少くとも、「けっして」、そうでは、ありませんとは云えない何ものかが、心の奥にあったことを思い出さずにはいられなかったのである。
 親孝行というものが、ただおとなしく、親達の命令のままに暮して行くことではないということを知ると同じように、自分は自分の愛情――彼等への同情のうちに、理智の照り返しを与えただろうか。
 彼女は、惨めな乞食に、一銭投げ与える年寄りは、永い年月に向って彼に定職を与える者より、無智な愛情の所有者であることは知っていただろう、けれども、人間にとって、最も多方面な発動の可能を持つ愛情は、それが力強くあればあるほど、無智にも傾きやすい素質を持つことを、自分から放射される愛情について考え合わせていなかったことが、いろいろな失策を産む原因であったことを、今ようよう、ほんとに今ようよう、ごく僅か覚
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