いる、大きな大きな欅《けやき》の根元に倚《よ》りかかりながら、彼女はなだらかな起伏をもって続いているこの柔かい草に被われた地の奥を想う。
 縦横に行き違っている太い、細い、樹々の根の網の間には、無数の虫螻《むしけら》が、或は暖く蟄し、或はそろそろと彼等の殻を脱ぎかけ、落積った枯葉の厚い層の奥には、青白いまぼろしのような彼等の子孫が、音もない揺籃《ようらん》の夢にまどろんでいるだろう。
 掘り出されない数限りない宝石や化石の底を洗って、サラサラ、サラサラとせせらぐ水。
 絶えず燃えくるめき、うなりを立てる不思議な焔。
 その熱と、その水とに潤されて、地の濃やかな肌からは湿っぽい、なごやかな薫りが立ちのぼり、老木の切株から、なよなよと萌え出した優雅な蘖《ひこばえ》の葉は、微かな微かな空気の流動と自分の鼓動とのしおらしい合奏につれて、目にもとまらぬ舞を舞う。
 この到らぬ隈もない音と音との調和、物と影との離れることのない睦まじい結合を繞《めぐ》って、ゆるやかに脈打つ生命の力を感じるとき。彼女は祈らずにはいられない感動に打たれるのである。
 霊感にさほど遠くない感情の火花が、美くしく彼女の胸の
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