う言葉のあるのをお思い出せなさいますか。
ほんとになぜ私は命を授けられたのか、それはこんな貧弱な頭で解ろうはずはありません。けれども、これほど微妙な生のあらゆる機能、自分で平気でいるのが、ときどきこわくなるほど微妙な作用を無言のうちに行って、今のところでは、それが次第次第に成長して来るのを感じているときに私は、どうして自分の生きていることは、間違いだと思われましょう。
先のように遊戯的に死を考えることなどは、もう出来なくなっている私は、はっきりと生きなければならないことを感じております。
どうしても、生きなければならない。そして生きるなら、出来るだけ正しい、よりよく、より真面目に生きなければならないのは当然ではありますまいか。
この言葉に対して、否定を与える人は一人もないことは確かです。皆がよくなれと云い、正しくなれと云います。けれども、悲しいことには、私も、恐らくはあなたも、王様には黙って耳を切られ殺されなければならなかった国民と大差ない境遇に置かれているとはお思いなさいませんか。
王様は、絶対無二、尊厳であり偉大であり完全でありたかったのに、不仕合わせな耳が彼を苦しめる種
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