何の用がある』
王様は少し安心して訊ねた。
『ハイ、私の無上に尊い王様、私奴は陛下のお耳のことにつきまして上りました』
一寸法師は、一層腰を低くしながら云った。
『何? 儂《わし》の耳のことで来た? そうならなぜ真先にそう云わん。さ、もっと近く来い、寒くはないか……』
『有難うございます、陛下。実は真にいい考えが浮びましたので、一度はお耳に入れて置きたいと思って上りました。御免下さいませ』
一寸法師は、王様の白|貂《てん》の寝衣の肩へ飛び乗った。そして、真黒な穴へ、何か囁くのを聞いているうちに、王様の顔は、だんだん晴々として来た。
『ホホウ、これは妙案だ、フム、実に巧い!』
『いかがでございます、陛下』
『実に妙案だ、さぞそうなったらうるさくなくて気が楽じゃろうてハハハハハハハ』
『ヒヒヒヒヒヒヒヒ』
一寸法師はどこかへ消えてしまった。
翌日、総理大臣が来ると、陛下は早速書物机の上から、羊皮紙へ立派に書いた、新らしい詔を取って、
『早速実行せよ』
と云われた。開いて見ると、国中の人民は一人残らず耳殻を切り取れ。なぜなれば、神の選び給いし国王に耳殻が与えられていないのは、それが
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