遇の変化にも、時代の進行にもなお動かされずに、自分の一生を貫くべき、「ほんとの人格の力」が見出されなければならなかった。自分が今も持たねばならず、学校を出てからも、死ぬときまでも持っていなければならない力が、要求されたのである。
一生の基となるもの、自分をほんとに偉くするもの、それは何だろう。
いくら考えても、答はやはり同じ、それは何だろうである。
彼女は、また今までよりもっと恐ろしい、もっともっと果もない疑いにぶつかった。追い払われていた、不仕合な悲しみや、辛さや、恐ろしさが、またソロソロと這い出して来た。どうしたらいいだろう。
洋罫紙《ようけいし》の綴じたのに、十月――日と日附けをして書きながら、彼女は、カアッと眩《まぶ》しいように明るかった自分の上に、また暗い、冷たい陰がさして来るのを感じた。
すぐよかに、いみじかれ
我が乙女子よ……。
声高な独唱につれて、無意識に口をそろえ声を張りあげて
すぐよかに、いみじかれ
わが乙女子よ……。
と合唱の繰返しをつけている最中に、彼女にはフト、その「すぐよか」「いみじき」という言葉の意味が何だかはっきり分
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