深く純粋な友愛を失うことはないのです。
 けれども、ここに私共の考えなければならないことは、現在の日本の夫婦間には著しく欠乏している友情[#「友情」に傍点]が彼等に於ては感情の基礎となっている為に、或る一部の人からは、女性の奉仕が足りないとか、良人が甘いとか云う非難を聞かされることです。
 勿論、心の賤しい、出鱈目の女ならば、自分は臥床に横って良人を叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]するようなことがないとは云えません。又、人前では虚偽を装って、平常|擲《なぐ》りつける妻の腕を、親切気に保ってやる男もないではありませんでしょう。
 けれども、相当の人格を持った者の間には、夫婦の情愛が、もう一歩鎮り、叡智的になった友情が深く生活に潜入していると思います。妻の知識はいつも良人のそれよりは低いのが常態であり、常に、良人が上位から注ぐ思い遣り、労《いた》わり、一言に云えば人情に縋って生活する状態では、事実に於て、妻も良人も二人の人として肩を並べた心持[#「心持」に傍点]は知り難いものではないかと危ぶまれます。
 妻の要求も良人の要求も、同量の重みを持っている。妻のそれを満すことが目下よ
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