を直接に、或は間接に肉体にうけて生活して来たのであった。従って、ひととおりそういう脅迫的な権力が崩壊したとき、日本の知識人は、はじめておおっぴらに自身の侮蔑を表現し、憎悪を示し、それにつばきしたのであった。
 その瞬間がすぎて、次に自分たちの日本の民主化という課題に向ったとき、既往の権力に示した侮蔑、憎悪の感情はどういう発展を遂げただろうか。ここに見おとすことの出来ない深刻な内面的危機がある。それは、日本のインテリゲンツィアとして歴史的な危機でもあった。民主主義運動の伝統の貧しい、それほど封建的な要素の多い日本のインテリゲンツィアは、人間として全く当然な自然発生の欲求から、生命の安定をさえ剥奪して来た既往の権力を否定したのであるが、その否定、拒否は明瞭に自覚されている民主化への欲求の上に立って発動したものであるとは云い難かった。堰いっぱいに充ちて来ている民主的要求の潮がバネとなって、つよくはじき出された既成権力への否認ではなかった。余り非人間だった過去の方法に対してその限り反撥し否認したのであって、それに代る自分たちの社会的発言力の構成としての政治形態は、はっきりつかまれていなかった。
前へ 次へ
全13ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング