ば、その相剋は作品にも歴然とあらわれたし、その生死にもかかわって来ていた。透谷、二葉亭、独歩、漱石、鴎外、芥川龍之介、有島武郎、小林多喜二などの例が、それぞれの形で、この事実を語っている。
 今日、日本のインテリゲンツィアのもっている苦悩は、日本の歴史のそのような系統をひいているものではあるが、内容は変化して来ている。そして、それぞれの人に自覚されている苦悩の心理においても変化している。日本がこの十数年間、戦争強行の目的のために、インテリゲンツィアが知識人として存在するあらゆる存在機能を奪っていたことが、その変化の原因となっているのである。自主的な判断というものと、自主的に社会生活を営む自由とを人民一般が奪われていたとき、どうして知識人が、知識人たり得たであろう。すべての知識、すべての合理的探究、価値評価としての批判は封鎖されていた。在るものは、権力の強制と、その強制を可能ならせている日本の軍国的な封建的な社会の雰囲気と、知識人たる自覚を放棄した一民衆としての忍苦しかなかった。似非《えせ》学者、似非作家、似非インテリゲンツィアの恥知らずな戦争協力にたいして、声に出せない眼をきつく働かし
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