られている。結婚も、互に選択するという欧州の表面の自由は、そのかげに、経済的利害の打算をふくんでいる。月給を考えずには恋愛も結婚も出来ない。こういう近代の社会生活の間で、第一次欧州大戦後は婦人の大部分がまた、自分の月給ぬきで、恋愛も結婚も考えられなくなって来た。加えて、大戦争のあとには必ず何かの形で経済恐慌がおこる。そのとき、最も深い傷手を蒙るのは、いつも人口の大きい部分をしめる働く女性と青年たちである。
 真実の愛に立たない分別ある[#「分別ある」に傍点]結婚から、男も女もやがてどの位相手をあざむき、自身をごまかす副次結婚や恋愛に陥っているだろう。若い愛がまともに達成されず、途中で挫かれ、初々しい真摯さを愚弄されるために、いかほど、人間への信頼を失って肉体と精神との漂流をつづけている人があるだろう。売笑婦の増大、半売笑婦人の増大は、偽善めかした貞操論者の顔の上へはきかけられた資本主義社会の嘔吐である。失業を増大させるしか手腕をもたない冷血貪慾な支配者たちは、彼らを生んだ母なる性の屈辱をもって自身の穢辱をさらしているといえるのである。
 精神と肉体との愛における統一と、そのあらわれとし
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