の弓矢を小舎の外からはずさないで、男が狩りをする方法は思い当らなかった。餓えがはじまった。それでも二人は、離れなかった。離れるより餓える方を選んだ。そして、いくつもの朝と夜とがすぎた。が、その小舎の前には、もう久しく同じ弓矢が、かけられたままになっている。
野蛮な部落の人々のこころに疑問がわいて来た。考える能力がおぼろげながら発動して、部落の人々は、この小舎の弓矢のかけ工合は異常だと認めた。すべての男たちが、自分たちの仕来りを考え、狩りのえものの分量を考え、それを女と二人で食って生活する小舎の暮しを思い、一対の弓矢ばかりが、そんなにいくつもの夜から朝へとかけられたままになっていることはあり得ないと判断した。そこで会議がひらかれて、小舎がしらべられた。そこで部落の人々が発見したのは何であったろう。部落のすべての人になじみの深かった男の一人と、女の一人とが互に抱きあったまま死んでいた。その小舎にはかじる一本の骨も一粒の穀物もなくなっていた。
これは、部落の風習にとって驚異であった。相手を選んでそれを離したくないと主張した一組の男女の死が見出された。十九世紀のヨーロッパ人である報告者は、
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