娘であることから、ちっとも憎らしくはないたよたよとした処、無意識の贅沢、おっとりした頭の働きが、ありありと思い出される。
その他、私としては、胆に銘じ、忘れ得ない記憶がその人に就ては与えられている。私は、幾度も、
「可哀そうに」
と云った。思い出すと、可哀そうに、と云わずにはおられない。――
そのうちに、私共の組の主任であった先生が来られた。五年の間、自分達は、その、がっしりとした体躯の、色の黒い女教師の下に育てられて来たのだ。大抵の者は、もう人の妻となり、或は親となっていても、彼女の眼を見ると、皆、仲間同士の正直な、打明けた表情は圧せられてしまう。堅くなり、他人行儀になり、生徒であった時の義務の感などが甦って来る。十三四から十八九迄、毎日見た顔、指導された心に対して、それほどの距離が、彼女と自分等との間には在る。
まるで教室にでもいるように、一斉に立って迎えた中を、辞儀と愛素よい笑とを振撒きながら入って来られる様子を見、自分の心は、悲憤ともいうべき激情に動かされた。
あの平気な顔、自分の仕たことに一つの間違いもなかったのだと云いたげな風。私は、
「深田さんが死んだとお聞きにな
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