。
それから一ヵ月ほどそこに滞在して帰京して間もなく、級《クラス》会があった。私は、正月から、まだその年は一度も出席していない。余り御無沙汰になるので、雨の降る中を出かけて行った。そして、皆の、賑やかな、笑い、喋る姿を見ると、ふと自分の心に、先達っての名が浮んで来た。私は、幹事をしていた人に、
「先達ってのお葉書ね、私、深田さんという方が、どなただか、まるで分らないからあのままにしてしまったけれど。どなた?」と訊いた。
「ああ。おつやさんなのよ」
友は、非常に力を入れて返事をした。
「おつやさんが去年の初お嫁にいらっしゃって、深田さんとおなりになったの」
「まあ! おつやさんなの? まあ……」
「思いがけないわね。何てお気の毒なんでしょう――」自分は、言葉なく、友達の顔を見守った。深い、深い愕きが心を打った。
思いがけないという以上だ。気の毒という以上に感じられる。それほど、私の心に遺っているおつやさんという人は延々と育ち、非常に美しい皮膚を持ち、軟い花のような人であったのだ。
女らしい我ままや、おしゃれは、級《クラス》の中で誰よりも持っていた。家が、金持ちの実業家であり、末の
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