て逃げて行く子供の方を見守って居る彼の顔は悲しそうに又厳かであった。
 私は心配であった。
 けれ共今まで気が付かずに居た叔父の髪の長い事を知ると非常に好奇心を動かされて、高い処にある彼の頭を眺めた。
 其処には実に奇麗な――ああちゃんのと同んなじ様だと思った程の光った髪の房が肩の上まで下って居た。
 私が目を大きくした位それは立派だった。
 素直で厚くて重そうでお飾りの様であった。
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「何て好んだろう。
 まあほんとに奇麗にそろって光って居るんだろう。
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 左様思うと私には、男の子が罵った理由がまるで分らなくなった。
 何故男の人は髪を長くしては可笑しいのか。どうしてチャンコロになるのか。
 私は自分の大切な者を悪く云われた口惜しさが胸一杯になった。
 けれ共彼はだまって私の手を引いて歩き出した。
 私はどうかして泣くまいとして口を引き歪めたり、しかめ顔をして堪え様とした。
 私の周囲には泣き顔を見られたくない沢山のお友達が居たからである。
 が、とうとう堪えられなくなって一粒涙がこぼれ出すともう遠慮も何もなくなって私は手放しの啜り泣きを
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