反対の方向に私を動かして居たのである。
彼の荒武者の様な男の人の様子は種々な意味で私の記憶に明かに残って居る。
何の為に彼那妙な事をする気になったのか。其の人の事を思うと一種異様な感じが私の胸に突き上って来るのである。
斯様にして彼は死にやがて葬むられたのである。
彼を知って居る者は皆彼の不運を歎いたけれ共其の死に様に関して唯一人の疑いを挾む者もなかった。
勿論それまでの成り行きは決してどの様な特別な形式も取られては居なかった。
彼は勧められて病院に入り養生をしたらしくあった。けれ共此頃、彼の心に湧いて居た事々が僅かながら解りかけて来た様な心持で種々考えて見ると、彼の死は非常に平穏な形式に依った一種の自滅ではなかったかと云う事を考えさせられる。
誰も私に云ったのでも注意したのでもない。
けれ共私はそう感じるのである。
彼が死んだ時専ら種々の手当てをして呉れて居た或る医師が、
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「何と御止めしても御聞きなさらずに運動をなさったので……
[#ここで字下げ終わり]
と云った事を聞いて居る。
それは勿論医者として親族から受けなければならない不快な感情
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