声を聞き付けて馳け付けた母に抱かれて泣き止みはしたけれ共その時からどうしても棺の傍へもよれなくなって仕舞った。
 何と云う気味の悪い顔色で有ったろう。
 絵に見、自分の想像の中のお化けそっくりの細い骨だらけの痩せ切った顔の様子は少し開いた口の形と一緒にいつまでも私の瞼にこびり付いて離れなかった。
 私は生れて始めて見た死人の顔にすっかり怯えると同時に、死と云うものに対して極端な恐怖と嫌悪を感じ出した。
 此の妙な人の仕た一事によって七つの子の死に対する無邪気さは私の心からあらかた持ち去られて仕舞ったのである。
 彼那恐ろしげな顔をした形をした者共が好い事をしたからと云って一所へ集ったって何で奇麗な事が有ろう。
 一体何故人は死ななけりゃあならないのか。自分も彼あ云う風にきたなくなって仕舞わなけりゃあならないのか。
 死ぬなんて何と云ういやなこわい事だろう。私は自分の死と云う事さえ遙かに想像する程になった。
 そして、この時に起ったこの心の激変――子供心の非常に動かされた死に対しての観念は長い間私の心の奥に潜んで居て四五年立ってから不思議な力を以て、更に思いがけない今の私には殆ど夢の様な
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