方にガヤガヤと人声が仕出すと、奥から出て来た母は其処いらをうろうろして居た私に、
[#ここから1字下げ]
「其処へ入っておいで。
見ちゃあいけませんよ、
きっとですよ。
[#ここで字下げ終わり]
と玄関わきの小部屋を指さしたまませわしそうに走って行った。
私は云われる通りその部屋に入って襖を閉めると間もなく何かが玄関の土間に下された様な気合[#「合」に「(ママ)」の注記]がした。
すると、多勢の足音が入り乱れて大変重いものでも運ぶ様な物音が私の居るすぐ前に襖一つ越して響くと、急に私は震える程の恐れにとりつかれた。
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「死んだお叔父ちゃんが来たのだ。
[#ここで字下げ終わり]
何とも云えず物凄い感じが私の目の前を飛び違った。両手を握り合わせ瞳を大きくして息をつめて居る間に音はしずまって、母が迎に来てくれた時には家中は啜泣きと悲しい囁きに満たされて居た。
だまって手を引かれて私は屏風の円くなって居る前に座った。
障子を閉め切って澱んだ様な部屋の中に、銀砂子を散らした水色の屏風の裏が大変寒く見える前に私は丁寧に手を突いた。
そして一番偉い方だと思って居る
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