葬式をして埋めて仕舞うと云う事は、あんまり手順が早すぎる様な心持がした。
死ぬなんて一体どうなるものかしら妙な事だとより思えなかったのである。
私は母のするなりに黒いリボンをかけられ、あまり笑ったりはしゃいだり仕ない様にと云われるままに慎しんで居る丈だった。
この時分の心持を今私の目前に育って居る丁度同い年位の弟にくらべるとまるで及びも付かない程私の心は単純であった。
彼は第一もう「ああちゃん」などと云う言葉は五つにならない位からやめて居るし、人が死ぬと云う事に対しても、勿論空想化されては居ても非常に或る丁重な感じと悲しみを感じ得る心になって居る。
そして世の中には死ぬと云う事が有るべきものと云う迷わない断定も持って居るので、其の時の私の様に死ぬと云う事が殆ど分らないと云う様な事はないらしい。
それに私の性質上母はその様な特殊な事件はなるたけ知らないですむ様にばかりさせて来たので、生れて始めて私は死ぬと云う事に会わせられたのであった。
私は妙にそわそわして落着けなかった。
にわかに人の出入の多くなった台所へ行って追いやられたり表座敷へ行って叱られたりして居るうちに、門の
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