窓の閉め忘れた所から吹き込む夜の風が切る様に私に打ちかかって、止め様としても止まらない胴震いと歯鳴りに私はウワワワワと獣の様な声を出して仕舞った。
もう真から気味の悪い思いをして漸う廊下を抜けて、叔父の部屋の傍まで来たかと思うと、いきなり私の心を引っさらって行く様な物凄い呻めき声が起った。
私は縮み上った。
そして、此那気味が悪いのに何故来たのかと云う気持にもなりながら、矢張り怖わいもの見たさで、少し隙き間の出来て居た襖の陰にぴったり貼り付いて中をのぞいた。
部屋の中は平常叔父の使って居たのとは違って大きい光った油壺の照り返しまで付いた洋燈が灯って居るので他所の部屋の様に明るくて、大きい影坊子が向うの壁の上に重ったり離れたりして居る。
沢山の人が居ながら皆自分が病気の様にだまって居る。
お祖母様もお叔母ちゃんもああちゃんも……黒い洋服を着て居るのはお医者様だろう。
オヤオヤ変なものだ何が彼那に光って居るのだろう。
私は大変珍らしく暖くなった様な心持になって、自分がかくれて居るのだと云う事等は、すっかり忘れてあれこれと見廻して居ると、祖母の陰になって顔の見えない叔父の声が
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