衆を前にして居ると同様に、手を動かし眉をあげて、いよいよ声高に云うのを見て居ると、私は何よりも先ず激しい恐怖に捕われて仕舞った。
生れて始めて斯う云う処に来た事丈でさえ異った気持にされて居たのに、叔父の様子と声は七つの子供に対しては余り厳格であり解し得ないものであったので、今にも先[#「先」に「(ママ)」の注記]ぐ逃げ出したい気持になって居た。
けれ共逃げ様にも行く道は分らなかった。
私は途方にくれて、きっと気が急に違ったに相違ない叔父の素振りをおずおずながめて居たが到頭堪え切れなくなって、
[#ここから1字下げ]
「帰りましょうよ、
ね叔父ちゃん、
帰りましょうってば。
[#ここで字下げ終わり]
とせがみ出した。
必死の力を出して骨の出た彼の肩をゆすったり、手を引っぱったりして、漸々彼を立ち上らせたのは、余程立ってからの事であった。そして行きより非常に長くかかって家に帰り着いた。此の忘られない事のあった※[#「涯のつくり」、第3水準1−14−82]は何処の所か私には長い事分らないで居たので、或時は其等の事は皆自分の空想なのでは有るまいかと云う気持にさえ成った事があるが、い
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