今までは叔父と云えばどうしても自分より偉く強く、どんな時でも困る苦しい事はない人だと云う様な気がして居たのが根底から引っくり返されて仕舞ったのである。
彼の棒を並べた様な垣によっかかって、人の足元の塵を浴びながら叔父ちゃんが苦しがって居るのに、沢山通る人の一人もどうしたのかと云ってさえ上げる人はないのか。
何と云うひどい人の集まりだろう。
何故自分が行ってそんな悪い人達を睨みながら大切にお叔父ちゃんを連れて来て上げなかったろう。
私は自分自身の手ぬかりの大いさに苦しめられると共に「悪い大人共」に対する憎しみで体が震える様であった。
そして彼に対する大人らしい同情が一層愛情を強く燃えたたせて、彼の味方は世界中に自分がたった一人有るばかりだと云う肩の折れそうな責任と誇りを感じたのであった。
その時から私の知って居る以外の大人共は非常に減ぜられた価値を持って私の前に現われて来たのである。
其那事があってからじきに叔父は家に帰って来た。けれ共頭の繃帯は少し薄くなった丈で常に気分が悪そうに悲しそうであった。
時には、やつれた髭の長くなった頬に止め度なくボロボロと涙をこぼしなが
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