響き返る事が出来るのである。
大変深く切った疵も少しずつなおりかけて来ると、独りでボツボツと食べる病院の飯は不美味いと云ってはお昼頃大きな繃帯で印度人の様に頭を包[#「包」に「(ママ)」の注記]いた叔父がソロソロと帰って来る様になった。
その頃は長かった髪も頭の地の透く程短かく散斬りにし、頬の肉が前より一層こけたので、只さえ陰気であった顔は一倍凄くなった。
黒っぽい木綿の着物に白い帯をした彼が、特別にでも自分だけは粗末な品数の少ない食卓にしてもらって、子供達の話や母の慰めを満足したらしく聞きながら、一口ずつ噛みしめて食べて居た様子がありありと目に浮ぶ程である。
或る日いつもの様に庭木戸の方から入って来た彼は、縁側にドサリと腰を下すと持って来た杖がころがったのに耳もかさず、妙にソーケ立った様な顔をしてだまって溜息を吐いて暫くしてから、
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「余程弱ったものと見えて今日は来る道に目が廻って仕様がなかった。
高等学校の角で三十分もしゃがんで居た。
[#ここで字下げ終わり]
とさもげんなりした様に云った。
此の時位私の心に彼に対して憐みの湧いた事はなかった。
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