え出来なかったけれ共、実にちゃんと並んである字の下に赤や青の線が随分沢山ついて居るのは全く解せない事であった。
まして、切角白くしてある所へゴチャゴチャと汚ない程種々なものが書きつけてあるのを見ると私はすっかり喫驚して仕舞った。
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「お叔父ちゃん、
随分いけないわねえ此那に御本よごして……
先生に叱られない?
[#ここで字下げ終わり]
彼は只笑いながら頭をポトポトと叩いてくれた丈で私の大疑問は解決されないで終った。
けれ共私は羽根のある可愛い自分がお伽噺で読む通りの子供達の群や天に昇って行く美くしい人々の絵を見ると、今まで読んだ沢山のお話が皆実現されて来る様に感じた。
或時は自分自身の肩からスクスクと羽根が生えて、多勢の人達の歌ったり踊ったりして居る大変面白そうな国まで飛んで行く事を夢想したり、子供の頭から皆光りが差して居るので自分のは如何うかと思ってソーッと鏡を見ると只黒い小さい頭がある丈なのに非常に失望した事もある。
其等の空想的な宗教画は少なからず「私のお話」の材料になるに益だって、折につけて口から出まかせの私独りのお話は前よりも数多くなりより
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