架空的になって行って、此れまで此上ないものとして読んで居たあたり前の人間と人間が「けんか」をしたり戦をしたりする丈のものは非常にあき足らなくなって来た。
 魔法のお婆さんはより歓迎され、一寸目ばたきする間に大きな御殿を作れるお姫様が待ち迎えられる様になったのである。
 私は彼に種々の御話をきかせた。
 どの様なものも皆彼を喜ばせたらしかったけれ共、何か一つでも悪い事をした者は必ず何処かで、
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「神様御免下さい、
 もう致しません。
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と云わなければ其の話は終りを告げる事は出来なかったものである。

 彼が中耳炎を起したのは帰って半年立つか立たない時であった。
 大学に入院して切開して貰ったのだけれ共、後から聞くと、自分は斯うやって死ぬ運命を与えられて居るのだから病院へ等入って、終るべき命を無理算段で延して置く事は望まないと云ってなかなかきかなかったそうである。けれ共私の母や親類の者は気を揉んで、散々説きすかして子供をあやす様にしながら入院させたそうである。
 そして、手術室に入ろうとした時、他の人の手術をされた血だの道具などが凄い様子で取り
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