て本の裡に暮して居た。
其の時分は、今私の書斎になって居る陰の多い、庇が長い為に日光が直射する事のない、考えるには真に工合の好い五畳が空き部屋になって居たので、其処がすぐ「お叔父ちゃんのお部屋」に定められて居た。
非常に砂壁の落ちる棚の上だの部屋の周囲にはトランクから出した許りで入れるものもない沢山の本が只じかに並べてあって、鳶色をした薄い同じ本が沢山荒繩にくくられてころがって在ったりした。
その鳶色の本を今見れば彼が非常に苦心して出版した『神の大いなる日』と云う書籍の残本であったのだけれ共、その時分の私には只「同じな沢山のご本」と丈ほか見えなかったのである。
「お叔父ちゃんの御本」は皆テラテラした紙に面白い絵の沢山書いてある好い香いのするものであった。
赤や青や時にはほんとに奇麗な金や銀の表紙の付いて居る其等の本は、灰色の表紙と只黒い色でポツポツと机や枝のしなびたのが付いて居る教科書よりどれ位子供心に興味を持たせ読み度いと思わせるものであったか分らない。
どんなにか面白そうであった。
けれ共皆悲しい事には英語で、私の読める片仮名と平仮名ではなかったので只の一字も感じる事さ
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