津軽の虫の巣
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)紺碧《こんぺき》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)生類|憐愍《れんびん》のことに就て

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「(諂−言)+炎」、読みは「ほのお」、第3水準1−87−64、412−4]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)色はなか/\少しも変り不申候。、
−−

        一

 朗らかな秋晴れの日である。
 津軽の海は紺碧《こんぺき》に凪《な》いで、一点の曇りも無い虚空を豊かに照り返えす水の上には、これはまた珍らしく漁舟の片影も無い。
 閑静に澄んだ波の面には、微かに動く一二羽の水鳥が、大らかな弧を描いているばかりである。
 けれども、若し人がその海岸に立って、遠い彼方に瞳を定めたならばきっとその注意は、遙か水平線の上にポッツリと浮き出して小さい物の影に牽《ひ》かれるだろう。
 影は紛れも無い二艘の船である。
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