女を助手として入用ではないだろうか。彼女自身役に立てる道はなくても、同じ仕事の他の方面を分担している人々が、万一|需《もと》めているかもしれない。――
「ああ、それが好い、あなた××の古い出の方で×夫人という方――御存じじゃないでしょうね、この方に一つ紹介を書いて見ましょう、範囲のひろい仕事をしていらっしゃるから、若しかすると何かあるかもしれない」
 千鶴子は、矢張り消えそうな声で、
「ありがとう」
と云った。はる子は紹介を書きつつ、或る不便を感じた。それは、千鶴子がこういう場合必要なだけ自分を打ち開いてくれていないので、×夫人に彼女を推薦しようにも個人的な材料のないことであった。はる子は已を得ず学歴のことだの、専攻したという科目だのについて書いた。
 ×夫人のところで不規則ながら収入のある仕事が与えられたという手紙が千鶴子から来た。間もなく使に出た家のものが、
「すぐそこで小畑さんにお目にかかりましたよ」
と帰って云った。朝だったので、はる子は附近に住む×氏を訪問したにしろ時刻が早いと思った。
「そうお、大変早いのね」
「この近所に御越しになりましたんですって。弟さんと御一緒だそうで
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