!」
と叫んだ。御堂なら、橋を渡った方が近いのだそうだ。
赤土の泥濘を過ぎ、短い村落の家並にさしかかった。道のところどころに、雨あがりの大きい泥たんこが出来ている。私共二人、もう行手の丘の上に天主堂の大きく新しい城のような建物を望み何心なく喋りながら、一軒の床屋の前に通りかかった。床屋の前の床几に五六人、七つ八つから十三四までの男の子が集っている。ちょうどあった泥たんこを、私共は左右によけて一二歩歩いたと思うと、不図背後で何か気勢がした。Yが反射的に後を振かえった。私も。子供を背負った一番大きい男の子が急いで床几に戻った刹那であった。Yの靴下から、服、ケープの肩のところまで、泥の飛沫が一杯ついている。Y、つかつか床几の処へ行った。
「何した」
「――」
「こんな悪戯する奴があるか」
悪童は、すっぱりと一つ喰らわされた。Yの洋装に田舎の子らしい反感を持ったのと、手下どもに己を誇示したかったのとが、偶然この少年をして「殴られる彼奴」にした原因だ。帰り、天主堂の坂下にその少年、他の仲間といたが、Yを認めると背中に括りつけられた隠し切れない旗じるしをひどく迷惑に感じるらしい。何とも曖昧な薄
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