った? プティ・ペダント」
二時頃から小糠雨が降り出す。長崎に切支丹伝道が始って間もなく建った、とーどのさんた寺の跡だという春徳寺や、怪談の絡まる切支丹井戸の在る本蓮寺などへ行って見る予定を変え、悠くり家居することにした。宿の高い欄干から外を眺めると、雨にけむる湾内の景色が見渡せる。眼下は、どこか人家の背戸だ。荒壁のうしろに、小さい一枚畑があって蔬菜が作ってある。手拭をかぶった女子が、雨にかまわず畝のところにかがんで何かしている。それがいつまでも遙か下の方に小さく見えた。
雨中、福済寺を見る。やはり黄檗宗で、明の帰化人、陳冲の子頴川藤左衛門が尽力して盛大ならしめた寺だ。門前で俥を下り、高い石段を登りつめて甃の道を左に数歩行くと、大観門から左右に廻廊のある青蓮堂が眺められる。黒い甃と朱の建物が、明るい細雨に濡れて一種の美しさを漂わせていた。私共は大庫裡の森とした土間に立って案内を乞うた。二声三声呼ぶと、ことこと階子を下りて来る子供の跫音がする。家庭的雰囲気を感じ、頬笑んだ我々の前に現われたのは、十ばかりの洋服を着た女の子、赤ちゃんを重そうに抱いている。その赤ちゃんが、居留地の西洋
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