は、附属家の手入れをして居たペンキ屋に、掛りの人の居処を聞いて見た。灌木の茂みの間の坂を登り切ったところに、大理石の十字架上の基督像を中心とした花園がある。其処に、木造の、深い張り出しを持った一棟古風な建物があるが、其も今手入れ最中人かげもない。テニス・コウトで草むしりをして居た女から、御堂《みどう》では草履をはかせないことを聞いて戻り、やっと内に入った。
 賑やかに飾った祭壇、やや下って迫持《せりもち》の右側に、空色地に金の星をつけたゴシック風天蓋に覆われた聖母像、他の聖徒の像、赤いカーテンの下った懺悔台、其等のものが、ステインド・グラスを透す光線の下に鎮って居る。小さいが、奥みと落付きある御堂であった。特に、ここには、正面入口の中央に、大理石で、日本信徒発見記念のマリア像が在る。
 空模様もよくなったので、私共は浦上へも行くことにした。浦上と云えば、静かな田舎であろうと思って居たところ、長崎の市の真中から電車で四十分ばかりの処だ。終点から川について教わった通り行ったが、二股道にかかり、さてどちらに行ってよいか判らない。丁度十五六の女の子が通りすがった。
「天主堂へはどっちの道を行っ
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