を睨み
「これだから貧棒旅行はいやさ」
と歎じるが、やむを得ず。自動車をよんで、大浦天主堂に行く。坂路の登り口に門番があり、爺さんが居る。これも、永山氏の御好意による名刺を通じると、爺さん
「日本のお方か、西洋のお方か、どちらへあげるね」
と訊く。どちらでもよいように永山氏はただ大浦天主堂御中という指名にされてある。私丁寧に答える。
「どちらでもよろしいのです。拝観さえ出来れば」
 すると、爺さん、名刺を見ようともせず私にかえし
「拝観なら、私でええ。今、葬式で皆お留守だ。そこの右の方から入って見なさい。木の仕切りの中へ入りさえしなければ勝手に見なさってええ」
 私共は顔を見合わせ、当惑して笑い合った。今度はYが訊く。
「勝手に拝見してわかりますか」
「――わたしはな、もう年よりで病気だから、説明が出来ませんじゃ、ここが苦しいから――だからただ見るだけ」
 冬の日向ぼっこのような平和な愛嬌が爺さんの言葉に溢れる。
 ただ拝見することにして、右手という、正面入口の右手扉を押して見たが明かない。ぐるりと後に廻ると、開く扉はあったが、司祭控室らしく、第一、下駄で入ってはわるそうだし困って、私
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