日はごたごたさ、鮪の買い出しが足りなくって騒ぎゃるし、源ちゃんは病院へ行くって出たまんまいつまで経ってもかえんないし……あああ」
 ふっと、私は笑いたくなった。そして云った。
「本当の姉妹かしら――所帯じみてるのね」
「ふうむ――分らない」
「いつ頃っから来てるの、へえ、まあいいやね」
 そんな声がする。
「こんだあ上野公園や日比谷公園へつれてってくれないかね」
「はぐれないようにして貰わなくちゃ。先行ったとき、車で飛ばしちまっただけで何が何だか分りゃしなかったわ、足でちっとも歩かないんだもの」
 東京見物の相談であった。彼等は浮いた声も出さず熱心に話した。
「新宿は二十七日っきりだから、浅川だけだね、参拝するなあ」
「嬉しいねえ」
 年増の女は駭然として
「だけど月経がさ」
と座りなおしたような声を出した。
「フッ!」
「いや女は……」
 男は真面目に云った。
「見たような気はしないし、ちょいちょい、ちょいちょい行きたくって」
「懲りてるのさ私《あたし》、この前名古屋へ行った時、全くどこ歩いてるのか分らなかった」
 女中が、銚子を運んで行った。
「宿賃いくらですってきき合わせたら五円
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