にはどんなお考えがあるでしょう。実に様々であろうと思います。
 一、きょうは一つ本を買おう一つ靴みがきをさせようそう思っている方もあればきょうは一つカミソリの刃を買わなければならないと思っている方もあり、きょうこそ一つあの話をものにして、と事業のことを考えている方もあるでしょう。今の瞬間に考えていられることが、きょう一日のうちにその幾らの部分実現されてゆくでしょう。
 一、大体、ものを考える、ということを、私たちはこれまで大げさに、むずかしいことに思いすぎて来ていると思います。
 あらゆるときに人間というものは只生きっぱなしているものではない、必ず経験していることを、心にうけとって、そこから一歩進み出た考えをまとめているものだ、ということを、知らなすぎたようです。
 だからものを考える、というといつでも何かむずかしい題がつくようなことを、いかめしく考えなければならないように思って少し世馴れて来ると、考えるということを面倒くさがるのが、わたしたち、特に日本人の癖です。考えたってはじまらない。よくそう申します。そんなことを考えるのは、俺の柄じゃない。
 そして、学生時代だけがものを考える時
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