では父の横へくっついて眠ってしまった。肩へ茶皮のケースに入った重いコダックをかけたまま。そして、誰かがそれをとろうとすると、半寝呆けながら「いや、お父様んだから百合ちゃんがもっていく」と拒みながら。
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    書簡(二九)

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註。軽い夕飯を食っているのはグリーン色の縞のスカートに膝出したハイランダアである。炉辺にかけて、右手でパン切をかじり、片手の壺は牛乳か麦酒か。炉の前にフイゴが放り出されていて、床は不規則なごろた石をうずめてある。一つ一つ色ちがいなその石の面を飛びわたって、父は隙間もなく日本字を埋めている。藻塩草 150 とかかれているところは窓のカーテンであり、無声と署名するのに、わざわざマントルピースの上に置額を描いている。父とロンドンの生活とにまだその頃は在った閑静さ。
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    書簡(三〇)

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註。おおこれは又何たる古典的「もうとるかあ!」燃えるような落日に森が黒い帯と連っている路を一人の美人が「もうとるかあ」を操縦して馳けている。
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