いている。あの率直さ、潔白をもって現実を更にひろく見渡すことの出来る境地に到達すれば、新しい合理的な生活の建設の途とはこの人生でどういう生き方を意味するかを当然理解せざるを得ない筈であるから。
「女一人大地を行く」の中には、非常に素質の豊富な、しかしながらそれらの素質はきわめて自然発生的に、経験的にだけ成長しているために、不揃いな発展をとげている一女性の姿が見えているのであるが、ここに更にもう一つの興味ふかい教訓が含まれている。それは、アメリカの女であるアグネス・スメドレーが今日、中国で活動しているその心持の秘密である。大体アメリカでは東部より西部の方が人種的差別が甚しい。その西部で生れたアグネスが、カリフォルニヤ大学で、そこの理事会がインド人の講演に反対したことから、有色人種に対する研究心を刺戟され、永年に亙る人種的偏見への闘争をはじめていることはまことに面白い。アグネスは、自分が生きて来た経験から、自分の体の皮膚の色で、白人の社会にもある不合理、非人間性を知りつくしている。同じ白い皮をもっているからと云って、アグネスは飢餓から救われたことはなかった。若い弟が自由労働者として働いて
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