いる間に、溝の中でつぶされて死ななければならなかった事情を彼等の皮膚の白さがかえはしなかった。社会の非人間的な差別が、皮の色だけにないことをアグネスは痛感している。自身の実感から、出発して、世界経済におけるアジアというものの意味をも知り彼女はインドの運動をも支持した。そして、今日、中国に働いている。単に「風とともに」というコスモポリタンとしての気分からだけ、彼女の自然で自由な国際的な感情があるのではないのである。そしてこの面での彼女は、既に「女一人大地を行く」の時代から、性と婦人問題とに対する理解よりずっと高い成熟を示しているのである。
「大地」「母」「息子たち」「分裂せる家」などで世界の読者に親しまれているパァル・バックが中国を愛する心持と、アグネス・スメドレーの広々とした感情とは、今世紀の二つの女の社会性のタイプであると思う。
 バックが中国を理解し、愛していることは一朝一夕のものではない。そこには彼女の父母が埋まっている。彼女の子供達は中国の乳母と中国の子供たちの間に育った。彼女の全家族の生命が銃弾におびやかされたことがある。バックは、いくつかの貴重な生命を通じて、急激に動く中国
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