こともまれではないのである。
 バックの中国についての感情は非常に深い。異国趣味なところは微塵もない。全く、彼女はアメリカよりもよく中国を知っているのである。従って皮相的な意味での中国は中国という考えは少しもない。中国のいいところ、ヨーロッパのよいところ、それ等をよく摂取してゆくべきであるという気持がこの精力的な婦人作家の胸中にあることは疑いない。淵《ユアン》と結婚することになる聰明沈着な美齢《メイリン》の言葉でも意味ふかくこの点は暗示されているのである。それにしろ、バックの作品中では、まだ、中国の統一的自主のあとに来る、或は中国の自立してゆく過程の内部に含まれてその有力な契機となっている民族自主の観念の発展性、未来の方向については語られていない。
 バックによって描かれているこの中国の民衆生活の内奥にある積極的な力の側に立って、アグネス・スメドレーが通信員として活動している事実は何と深い、心持をうごかされることであろう。バックは、今日まで動いて来た中国とともに自身の生活を進め、その理解をも深めて来た。昨今の複雑な中国の動きの間に、芸術家としての彼女は更にどう成育して行くであろうかとい
前へ 次へ
全18ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング